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―2―
その夜、香南〔かなん〕は文字通り、泥のように寝込んだ。
それでも、布団が薄すぎたのか、急に気温が下がったのか、足先が妙に冷たくなって、夜中にいくらか意識が戻った。
もぞもぞしながら、ぼーっとした頭で切れ切れに考えた。
──寒っ。 クローゼットから毛布出す?──
自分に訊いてみて、ベッドから出るのはもっと寒くて、かなり嫌だと気がついた。
膝を曲げ、爪先を丸めて、体温で温まったシーツの上に移動させようとしていた時、ベッドが動いた。
少なくとも、寝ぼけている香南には、そう思えた。
やだなぁ、地震? と考えた直後、フワッと膝が温かくなってきた。 その熱は、すぐ足先に伝わり、まもなく全身がポカポカし始めた。
香南は安心した。 寒波は去ったに違いない。 もう大丈夫だ。 朝は、えーと、七時半起きでいいから、後五時間ぐらいは眠れるだろう、たぶん……
ベッドのヘッド部分に置いてある丸っこい置時計を見ようとして、顎を上げかけたところで、香南の意識は消えた。
異変に気づいたのは、すっかり夜が明けて、ストライプのカーテン越しに五月の日光が差し込んでいる時間帯だった。
潜っていた掛け布団から目だけ出し、何度も瞬〔まばた〕きしてから時計を見ると、六時二十分だった。
なーんだ、早すぎるよー ── 香南は、がっくりして額に手を当てた。 二度寝するには時間がなさすぎるし、起きてしまうにはもったいない。 が、そうしないと遅刻が待っている。
重い溜息と共に、香南はもぞもぞ布団から這い出し、足を下ろしてモノトーンの室内履きの上に置き、立ち上がった。
そして、寝乱れた布団に空気を入れようと、何気なく振り返った。
枕に、黒い頭が載っていた。
初めは、幻かと思った。
両目をごしごしとこすって、もう一度見返したが、頭はそこに、確かにあった。
香南は息を呑み、反射的に自分のジャージを上から下まで触ってみた。
いつも通りだ。 誰にも、何もされてない。
じゃ、この男の頭は、いったい……
抜き足差し足で、香南はベッドを90度回り、寝ている男を覗きこんだ。
四角い額と、閉じている瞼、形のいい鼻まで見えた。
まだ若そうだ。 深い眠りに落ちているらしく、掛け布団がゆっくりと規則正しく上下していた。
まったく知らない顔だった。 こんな人、会ったことがない。 まして、連れ込んだ覚えなんか、全然なかった。
寝不足で、よく動かない頭でも、すぐ疑問が湧いた。
──この人、どこから来たの?!──
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