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あなたが欲しい
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その晩、蝋燭がもったいないにもかかわらず、半時間以上もクイントはエイドリアンと話し、説得し、心を動かそうとした。 それでもエイドリアンはまったく乗り気にならなかったが、クイントが唾を飛ばしながら熱弁するのがうっとうしくて、最後に話を打ち切るために、ぽつんと言った。
「それじゃ、どこに住んでるかぐらいは見に行こう」
とたんにクイントは、期待と不安の入り混じった表情になった。
「そう……そうだな。 案内するよ」
「いや、いい。 しょっちゅう走り使いに出るから、ロンドンの地理は詳しい」
「そうじゃなくて! いやつまり」
奥歯に物の挟まったような言い方で、クイントはあわてて遮った。
「俺の言い出した計画なんだからさ、のけ者にするなよ」
「俺は実行するなんて約束していないぞ。 うまい話には罠があると昔から言うじゃないか。
近所でしっかり聞き込みをして、本当に埋まるほど持参金があるのか、秘密の恋人などはないのか、事実を知らないと」
「ちゃんと調べたよ! おまえ俺を信じないのか?」
クイントは一段と早口になった。
「フィリパ・スペンサー嬢は現在二十歳。 恋人なし。 両親を事故で亡くして、富豪一族のただ一人の相続人。 神に誓って間違いない!」
熱弁の最中、クイントはちらちらとエイドリアンの顔色をうかがっていた。 だから、何かやましいことがあるのがエイドリアンにはすぐわかった。
「まだ話していないことがあるだろう」
「え? 別に」
「いや、あるはずだ。 おまえはちゃっかりしているようで根が正直だから、態度に出てるよ。 さっきから何そわそわしてるんだ」
「それは……つまり……」
クリントの顔がだんだんうつむいた。
「あの……彼女の仇名が」
「仇名?」
「うん……。 『糸引き目』っていうんだ」
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