「城は維持するのが大変だ。 領地はたっぷりあるんでしょうな」
「いえ、あの」
根が正直なセシリアは焦って、どっちつかずの返事を返してしまった。
ウィリアムは溜め息をついた。
「たしかにあなたのその顔かたちなら、息子をとりこにするのは簡単だったでしょう。 しかし長い目で見れば、あなたはパトリックの失った人そのものではない。 きっとぎくしゃくして……」
「違う!」
目を怒らせて、パトリックは鋭く会話に割って入った。
「わたしはこの人の顔に惹かれたんじゃありません! むしろ、最初見たときは、後味の悪い別れを思い出して気が滅入りました。 親の認めた婚約者を他の男に奪われるなんて、屈辱です。 恥です!
でも、この人はジュリアのように鼻っ柱が強くない。 おっとりしていて、とても優しい。 心がなごむんです」
パトリックは必死だった。 ウィリアムにもその迫力は伝わった。
おっとりして優しい? ジュリアもそう言われているじゃないか、と思いながら、そろそろ許してやってもいいかとウィリアムが気持ちを決めかけていると、不意にセシリアが一歩進み出て、強ばった顔で、肩掛けに包んだものを前に差し出した。
「確かに親はいないし貧乏ですが、何ひとつないわけではありません。 これだけは大切に持ってきました。 モンデシャールの首飾りといって、うちの家宝です」
広げた肩掛けの中には、薄汚れたタペストリーが入っていた。 テーブルに広げても印象は変わらず、四角張ったライオンやフェニックス、ドラゴンなどが、つやのないガラスの目玉をつけて並べられているだけの、侘しい綴れ織りにすぎなかった。
だが、セシリアが肩掛けの端でガラスの目をこすると、驚くような変化が起きた。 みるみるその目は輝きを取り戻し、窓から差し込む午後の日を受けて燦然〔さんぜん〕と光りはじめた。
あっけに取られて、ウィリアムの視線は宝石とセシリアの間を往復した。
「これは……サファイア?」
「はい」
誇らしげに、セシリアはささやいた。
「大きいもので一粒十カラットはあります」
「それは凄い」
思わずウィリアムは唸り声を上げた。
宝石は大小取り混ぜて三十二個もあった。 大きな屋敷が丸ごと買えるほどの値打ちだ。 これでウィリアムの心もほぐれ、晴れて結婚を認めることとなった。
新しい城で、華燭の典は盛大に行なわれた。 大広間は五百本を越える蝋燭で照らされ、長テーブルには溢れるほどのご馳走が並んだ。
しかし、もっとも輝いていたのは蝋燭ではなく、花嫁花婿だった。 パトリックが無邪気に笑う顔なんて生まれてはじめて見たと、バーロウや幼なじみのエディが驚くほど、彼は皮肉を忘れ、素の自分に戻ってはしゃいでいた。
そして、花嫁は、そんな夫をなごやかに見つめていた。 深い愛情を全身ににじませて座るその首には、夏の湖の色をした豪華な首飾りが光り、人々の目を奪った。
それこそが、モンデシャールの首飾りだった。
読みましたヨ♪ |
この話は、イチさま、アンサーさまのリクエストによって書いたものです。 お二方、ありがとうございました。 |
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