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表紙

花の冠 39


 クラウスはちょっと考えた。 ぴんと来るものがあったのだ。
「疲れたんだろ? それに、面倒見てくれるお付きもいないしな」
「……うん」
 珍しく素直になって、エメは近くの石に座りこんだ。
「ほんとに疲れた。 うちに帰りたい」
「返してやるよ。 あに……男爵が戻ってきたらな」
 とたんにエメは口の端をきゅっとすぼめて、いたずらっ子のような顔になった。
「あなた達って、人がいいのよね。 アンヌマリー様の首飾りを盗ったのだって、口実でしょう? そんなのでよく誘拐なんて引き受けたわね」
 クラウスはとたんに表情を曇らせ、のっしのっしと歩き回りながら不機嫌に答えた。
「浮世の義理だ。 というか、利権がからんでるんだ」
「でも計画は果たせなかった」
「まあな」
「これからどうするの?」
「困ったよな。 あんたを送り届けて礼金でも貰うか」
 クラウスは冗談のつもりで言ったのだが、エメはすぐ身を乗り出した。
「いいわよ! 私がお父様に話す!」
「やめろ! 本当に金目当てじゃないんだから」
 また高い声で言い争いになったとき、気まぐれな空から急にザーッとにわか雨が落ちてきた。 エメは立ち上がって溜め息をついた。
「お城に入るしかないようね。 あーあ、無事に火が焚けるといいんだけど」
「大丈夫だよ。 そのくらいはできる」
 あまり嬉しくない保証をして、クラウスはきしむ扉を強く押し、人が入れるぐらいの隙間を作った。
「さあ、どうぞお先に」
「レディファーストはこの際いいわ。 中に何かいると嫌だから、先に入って」
「はいはい」
 取るものなんかないから誰もいないさ、と言うのを我慢して、クラウスはすっと扉の横にすべり込んだ。
 



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