レスキュー 2
雅信と了介の目が、反射的に、放物線を描いて飛んでいく白いカタマリを追った。
やがて了介が、間延びした声で言った。
「かつらかあ」
まず頭を押えてみてスースーする理由を確かめた後、着物姿の女性が手短に答えた。
「ここ老人ホームでね、私たち慰問。 あそこは楽屋」
遠くからウーウーガチャガチャと消防車の近づいてくる音がした。 我に返った雅信は、了介の脚に掴まってふるえている娘を受け取って下ろし、ついでにぐらぐらしている了介の足首も支えてやった。
近所から野次馬が集まり始めていた。 ホームの前庭に次々と入所者が運び出されている。 自力で避難してきて、冷えた外気にふるえながら肩を寄せ合っているお年寄りもいた。
間もなく、火の粉を飛び散らせている窓の下に消防車が横付けされた。
「どいて、どいて!」
雅信たちも野次馬と一緒にホームの近くから押し出されてしまった。
スポーツバッグをぶら下げた二人組と、派手なドレスと地味な着物の衣装をまとった女の子二人は、街灯の真下でお互いの姿をようやくはっきりと見ることができた。
ドレスの子は、了介が予想したとおり、十八ぐらいのかわいい娘だった。 一方、雅信の助けた着物さんも、悪くはなかった。 老女にみせるために皺を描いているが、すっきりした輪郭は若く、スタイルもよかった。
消防士たちが盛んに銀色のしぶきを放射しているベランダを見やって、着物さんがつぶやいた。
「危なかった、ほんとに……」
そして、いきなり雅信にペコンと頭を下げた。
「ありがとうございますっ!」
半泣きになっていたピンク・ドレスさんも急いで着物さんにならって、二人の若者にお辞儀した。
「何が起きたの?」
雅信が訊くと、着物さんは栗色の眼をしばたたきながら見返してきた。 火事の煙が流れてきて、眼にしみるらしい。 その仕草がどきっとするほと女らしく見えて、雅信ははっとした。
「電気ヒーターがね、急にうなりだして」
「バッて火が出たの。 それでカーテンに燃え移って」
ドレスさんが後を引き取った。 雅信は忙しく動き回っている消防士を観察し、指揮官を見定めた。
「あの人に話したほうがいいよ。 火事の原因」
「あ、はい!」
着物さんが反応よく小走りで去っていった。 ドレスさんも続いて行きかけたが、了介が素早く引き止めた。
「俺、清水っていうんだけど、君は?」
「大野です。 大野みどり」
「やけどしなかった?」
「うん、大丈夫。 ありがとうございました」
二人の恩人の名前を訊かなくちゃ、とようやく思いついたらしく、みどりは雅信の方を向いた。
「えと、あなたは?」
「俺はいいよ」
ぽつんと言うと、雅信はさっさと歩き出した。
背景:アンの小箱
イラスト:留守番じいさんの過ぎ去りし日々
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